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二三園
二三園
緑茶の中でも特に有名な京都の宇治茶。その宇治茶の産地である木津川市加茂町に、二三園はあります。その起源はなんと江戸時代天保の頃にまで遡り、現在の園主は十三代目にあたります。
そして、そのご子息である十四代目の三宅広大さんは、静岡での厳しい修行をようやく終え、今は園主の指導のもと、二三園の緑茶製造に勤しんでいます。
工場三宅さんは幼少期から二三園を継ぐことを漠然と志しており、幼稚園の卒園式では将来の夢として、そのことを公言していたそうです。しかし歳月は流れ、高校時代にはもう一つの夢として保育士になりたいとも考えるようになっていました。人生の岐路に立ち、進路について深く悩んでいた三宅さんでしたが、「普通の人は緑茶農家になるという選択肢がない。君は、人にはない選択肢を持っていて良いね」という知人の言葉に動かされ、二三園を継ぐ決心がついたそうです。
それこそが江戸より続く二三園の系譜に、またひとつ新たな歴史が刻まれた瞬間でした。
ところで、宇治茶の産地である木津川市加茂町ですが、一方で現在も続いている緑茶農園は決して多くありません。それというのも加茂町は砂地に覆われた地域であり、実は緑茶の栽培にあまり適さない土地だからです。かつては緑茶農園が立ち並んでいたこの地域でも、大半の農家は緑茶を離れ、根菜など環境に合った作物の栽培に転身するようになってしまいました。
もちろん、同じように選択を迫られた二三園でしたが、江戸より続く先代たちの想いをここで断ちたくないという一心で、その打開策を考えるようになりました。恵まれない土地でありながらも、周辺の名産地に並ぶ、あるいはそれを越える品質の緑茶を作らなければならない。残された茶園の人々が来る日も来る日も考え、そして数多くの試行錯誤を経て生まれた新しい技術が「かぶせ」でした。
「かぶせ」とは茶葉の育成過程において日光を遮るシートを被せるものであり、茶葉は陽を受けないことでテアニンが通常より多く生産されることから、艶と甘み、旨みの強い緑茶を製造できるようになるのです。一般的な煎茶の品質を越える「かぶせ茶」という新たな緑茶を生み出したことにより威厳を取り戻した加茂町は、その名前と技術で再び広く知られるようになりました。
今でこそ多くの農家によって栽培されている「かぶせ茶」の起源は、恵まれない土地だからこそ創造された、加茂の人々の知恵の結晶だったのです。
十四代目として二三園での活動を始めた広大さんは、二三園の新しい一歩となる重要な役目を負っています。それが二三園の小売業の展開です。
全国的に緑茶の売り上げが低迷している現状において、既存の閉鎖的な物流ルートのみに頼っていても、農家にとってのメリットは薄れていくばかりです。その打開策として小売事業に着手する農家は増えており、二三園もいよいよ三宅さんを筆頭に本格的に参入することとなりました。
「売上の拡大はもちろんですが、それ以上の理想もあります」と三宅さんは熱く語ります。「緑茶は代々受け継がれた“京の文化(和の文化)”であり、私たちには継承し、発展させていく義務があります。また、今私が作っている緑茶は、二三園の先代たちがこだわり、信念を持ち、努力してきたからこそ受け継がれてきたものです。もし私に役目があるとすれば、緑茶を通じて受け継がれてきたその想いを、多くの人々に伝えていくことです」
三宅さんが二三園の行く末を見つめるとき、その眼差しは緑茶農家という古い枠組みを越えた、一人の経営者としての鋭い光を秘めていました。
緑茶の品質はもちろんの事、パンフレットやパッケージのデザイン変更、WEBへの参加など、あらゆる可能性を探り、販売ルートを拡大しようと奮闘しています。これまでの緑茶農家の目から見れば、実に新しい試みです。
しかし、それはあくまでも農家の話であって、一般的な企業の視点からすればまったくもって当たり前の行動です。三宅さんはそのことに気が付いています。だからこそ、変わらなければならないという強い志を持っているのです。
古い農家の殻を破り、新しい農業経営スタイルを模索する姿こそ、二三園の革新的な歩みといえるでしょう。その先頭に立ち、舵を切る人物こそが、三宅広大さんなのです。
「緑茶は自然の力に左右され、同時にかけがえのない恩恵を受けて育つものです。去年と同じ緑茶は絶対に作れません。文字通り、一生に一度の出会いなのです」
多くの緑茶農家が口にすることではありますが、三宅さんの場合、その意識が特に強いと感じられました。
緑茶は農作物であり、その年の天候が大きく影響します。三宅さんは茶葉の品質を上げるために様々な策を凝らし、害虫からその身を守り、霜と闘い、様々な機器を投入して環境を維持し、一年中畑に足を踏み入れながら茶葉の成長を見守ります。生活のすべてをささげ、あらゆる施策を講じているにもかかわらず、それでもたった一日の雨の影響で、茶葉の味は変わってしまうのです。
それが緑茶農家に突き付けられた現実であり、そのような環境下において、多くの農家たちが諦めることなく自然と闘い続けています。そしてその結果として、人々の心を潤す極上の緑茶が生み出されていくのです。
それは「大量生産」という世界では決して生まれず、実現できないものです。だからこそ、「本物」の緑茶の味を多くの人に知ってもらいたい。真剣に緑茶づくりに向き合う農家の人々が共通して抱く想いであり、それは三宅さんもまた同じです。
「インスタントティーやペットボトルでは味わえない、“ほんまもん”の緑茶を私たちは作っています。私たちが情熱と愛情を注いで作った“一期一会の緑茶”を通じて、お客様との“一期一会の出会い”ができれば幸せです」
二三園という名の新しい船は、今も昔も変わらぬ信念の風を煽り受け、今日もこの世界を駆け巡っています。
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