Manabu Shiraishi

白石学


白石学

白石学
(和菓子職人)

「和菓子」と「日本酒」のマリアージュを目指す和菓子職人。
日本酒に合う新しい和菓子の開発と、その和菓子によく合う日本酒の研究に専念されている若き和菓子の作り手として、イベントなどでも活躍されています。


Q1. 「和菓子と日本酒のマリアージュ」というアイデアに至ったエピソードを教えてください。

専門学校を卒業したのち、地元(北海道)の和菓子屋さんに就職しました。そこは半世紀近く続く個人店なのですが、そこで和菓子作りの基礎を多く学ぶことになりました。その技術や経験をベースに、自分のやりたい方向性を模索し始めたのです。

東京に移り、さまざまな飲食業に携わりながら、自分なりの和菓子を研究しました。いまは日本酒専門店で働いているのですが、実はその経緯こそが、「和菓子と日本酒のマリアージュ」というアイデアに繋がるのです。

私はもともとお酒が好きで、特に焼酎が好きでした。当時知人から、焼酎のお湯割りは濃厚なチョコレートによく合うという話を聞き、試してみると、実際にその通りで。「なるほど、お酒はスイーツに合うのか」と衝撃を覚えました。それならば和菓子にも活かせないかと思い、勉強がてら焼酎の専門店で働き、焼酎に合う和菓子作りの研究を始めたのです。

もちろん、それだけでも十分な成果ではあったのですが、私の転機はあるソムリエに出会ったことでした。そのソムリエに美味しい日本酒を紹介され、一口飲んでみると、一気に自分の世界が変わった気がしました。その日から、すかさず日本酒にシフトチェンジです(笑)。

それというのも、確かに日本酒自体の味に感動したのもそうですが、実は焼酎に比べると日本酒の方が細かい味わいを持ち、色々な料理やお菓子に合わせやすかったのです。

もちろん和菓子にもピッタリでした。たとえば練りきりであれば、優しい小豆の香りがする程度ですので、吟醸酒、大吟醸酒に良くマッチします。ただ、お米の香りの強いものについては、お菓子の味が負けてしまうので注意ですね。

いずれにしても、それ以来、私の和菓子研究も一変し、すぐさま日本酒の勉強を始めました。それが、いま日本酒専門店で働いている由縁なのです。そして同時に、「和菓子と日本酒のマリアージュ」というビジョンがかなり鮮明に見えてきた瞬間でもありました。

Q2. そもそも和菓子職人を目指した経緯は何ですか?

そもそも和菓子職人を目指した経緯は何ですか?もともと私の父はパティシエをしており、私が生まれた頃はパン屋を経営していました。とにかく器用で、お菓子でも何でも自分で作ってしまうような人なのです。ちなみに私は三人兄弟の末っ子なのですが、上の兄弟たちはそれぞれ自分の道を歩み、誰も料理系の道へと進まなかったため、残った私が専門学校へ行くよう父に言われたのです。私も私で、そもそもパン屋を手伝っていたり、自分の手で何かを作ることが好きだったので、特に抵抗もなく、その道へと進みました。

その専門学校で、さまざまなスイーツづくりを学んだのですが、中でも面白かったのが和菓子を教えてくれた先生でした。その先生というのが70歳くらいのおじいちゃんだったのですが(笑)、ゴツゴツした手で、とにかく器用にお菓子を作るのです。その方が実に物腰の柔らかい人で、「あぁ、この人だからこんなお菓子が出来るんだ」とついつい思ってしまうような、そんな作品を作っていました。その時に、気が付いたのです。和菓子は文字通り「手」で作るものだから、同じものを作っているはずなのに、ひとりひとり、その出来栄え、いってみれば「顔」が違うものになるのです。その何ともいえない面白さに感動を覚えました。

また、和菓子は「二十四節句」を表現できるということも、そこで習いました。四季を感じながら、その姿を目でとらえ、香りを吸い込み、舌で味わう。そういう体験が出来るのは和菓子だけですし、そこにも強く惹かれたことを覚えています。

Q3. 白石さんの和菓子に対するこだわりはありますか?

白石さんの和菓子に対するこだわりはありますか?最近、「丸いもの」が好きだという事に気が付きました。たとえばアジサイの花が一つずつ咲いていくのを眺めて、ついうっとりしてしまうように(笑)。とにかく、可愛らしい見た目というのは意識しています。

味わいの方でいえば、甘さをそれほど加えずに素材の味を引き出すことに注力しています。昔の和菓子は甘みが強く、砂糖を効かせたものが多かったのですが、それよりはかなり控えめで、風味の柔らかいものを作っています。たとえば以前、芋ようかんを作ったのですが、砂糖はほとんど使いませんでした。その分素材を引き立たせ、十分な甘みと味わいを実現することが出来ました。

とにかく、もう一回食べたいと思ってもらえるような、記憶に残る、余韻の残るお菓子作りを目指しています。

そういえば、緑茶を使った和菓子に挑戦したこともあります。しかし、緑茶は非常に繊細で苦労しました。ものによってはすぐに味や色彩が変化してしまいます。あんこに入れて混ぜたときは綺麗なのに、蒸した瞬間に茶色くなってしまったりだとか。

緑茶をブレンドした水ようかんを作った時は、とにかく緑茶の良さを殺さないことを目指しました。緑茶の風味や、今まさに飲んでいるようなイメージ、ジューシーさとお茶の風味が口の中ではじけるような、そんな感覚を意識しました。それほど沸かさずに、緑茶を淹れる時のことを想像しながら。個人的には、とても良い作品が出来上がったと思っています。

緑茶には玉露やかりがねなど色々な種類がありますが、それぞれに風味が異なるので、研究し甲斐があると思います。

Q4. 白石さんは日本の文化のどのようなところに惹かれていますか?

白石さんは日本の文化のどのようなところに惹かれていますか?何か・・・好きなんでしょうね(笑)。

たとえば、和菓子と洋菓子の甘さはまったく異なります。洋菓子の甘さは、突き抜けるような強い甘み。それに対して和菓子は、「和」の文字のごとく、和むような温かい甘さを感じさせてくれます。その感覚は、私の中ではとても大切で、一言で言ってしまえば好みに合ったのです。

また、日本酒といえばおちょこでチビチビ飲みますよね?わざわざ、あんなに小さな容器に入れる。その「わざわざ」であったり、ちょっとした「ひと手間」というのが、日本の食べ物、あるいは日本の文化にはたくさん見られます。そういうものを発見したとき、心が安らぐ気がするのです。

オリンピックや和食が文化遺産に指定された関係で、日本の文化が見直されています。そういう今だからこそ、若い人にもっと知ってもらいたいですね。

日本の文化に対して、先入観を持っている人も多いと思うのです。和食ってこういうもの、和菓子ってこういうもの。でも実はそうではないのです。こういうものがある、こういう楽しみ方がある、こういうデザインでこういう食べ方をすると、こんな風にあんこの味が広がるんだ、というように。私は和菓子職人として、そういうものを発信していきたいと思っています。

和菓子でも日本酒でも緑茶でも、まずは手に取り、口にしてほしいのです。今の若い人たちは吸収力が物凄い。ひとつでも興味を引くことが出来れば、「それ何ですか」って猪突猛進につっこんでくる。最初のきっかけさえ何とかなれば、どんなことにでも研究熱心に捉えてくれるのです。だから私もしっかり伝えていきたいし、皆様にもどんどんトライしてほしいと思っています。

~ところで、白石さんより質問~

~ところで、白石さんより質問~この和菓子に名前はありません。一般的に和菓子は、一目見てすぐにそれが何であるか分かるように作るのですが、この作品はあえて、見る人によってその姿が違って見えるような幅を持たせたそうです。

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